● <常設展> 冬枯れ 所蔵名品展 ●
平成20年12月2日(火)〜 12月25日(木)

所蔵の日本画作品の中から1年のしめくくりにふさわしい珠玉の作品約50点をご紹介いたします。忙しい年の瀬のひととき、名画との出会いでほっと一息つかれてはいかがでしょうか。また、今回は、伊東深水(いとう しんすい)の素描画を15点ほど展示いたします。デッサンは画家の日ごろの鍛錬の軌跡です。作品の源、貴重な原点をどうぞご覧くださいませ。

 
<展示作品ご紹介>

「 猛虎図 」右隻
大正2年(1913)頃制作 屏風(六曲一双)
西村 五雲(にしむら ごうん)
(1877-1938)

 左右あわせて横幅7メートルほどもある大きな屏風です。左半分には横座りになった一頭の虎が頭をもたげて遠くを見遣っています。右半分には二頭の虎が、こちらは、一頭は立ちあがり咆哮し、もう一頭も頭を低くして何かに身構えているようです。「静」と「動」の対比です。
 背景には墨で岩や多少の下草、地表と思われる線が描かれているだけです。それでも、虎たちはその太い足で、しっかりと地面を踏みしめています。空中に浮いているようには見えません。これが画家の見事な表現力なのです。また、画面いっぱいに虎を描くのではなく、余白を大きく取っています。そうすることで、虎の周りの空気をも描き表しています。左右比べると、周りの空気の雰囲気が何となく違うことに気づきます。左の「静」は、緊張感はあるものの、空気は穏やかで凪いでいます。右の「動」は、咆哮がとどろき、空気まで震えて渦巻いているようです。
 西村五雲は京都で生まれ、京都で活躍した画家です。花鳥、動物を特に得意として、写生にもとづいた卓越した筆致で、生命感あふれる作品を多数残しました。

 

「 離山凍る 」
昭和61年(1986)制作
堀 文子(ほり ふみこ)
(1918- )

 真冬の早朝、夜から朝へうつりかわる時。山は霜に覆われて一面凍っています。そこに太陽が昇りはじめ、朝陽があたったところから順に、木々の表面の氷の粒が溶け出して、光に反射しキラキラ光って金色にみえるのです。なんと、神々しい光景なのでしょうか。画面の下のほうの影の部分は、まだ太陽の光が届いていないところです。まさに夜から朝への一瞬の時。その美しくも神聖な瞬間を画家はとらえたのです。
 この作品について画家は「できるだけ自己主張を消し」見たまま、感じたままを飾らず、画面に記録していった」と語っています。軽井沢にアトリエを構えていた画家は、あえて厳寒の季節の太陽が昇る前のもっとも寒い時間帯に戸外で雪の上にじっと座って目の前の離山(はなれやま)に起こっている美しい光景をみつめて、デッサンを重ねて写し取ったのです。画家の心境もまた神聖で高潔です。
 自然の美しさと自然への畏怖の念を改めて感じさせられる作品です。

 

他、小倉 遊亀(おぐら ゆき)、小林 古径(こばやし こけい)、平川 敏夫(ひらかわ としお)、
前田 青邨(まえだ せいそん)、横山 大観(よこやま たいかん)、などの作品をご紹介いたします。

 
 
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